Source de l’article : ELLE Japan
ハーブコスメのルーツはアラブにあり!
モロッコの大地に生息するさまざまなハーブは、精油やハーバルウォーターとして、女性たちのビューティライフに欠かせないもの。今や世界中に根づく植物療法・アロマテラピーのルーツが、ここ、アラビアにあった。
上質な精油とハーバルウォーターの名産地
北アフリカのモロッコは、多種多様の花やハーブが人々の生活に根づいている国。ダマスクローズやネロリ、イランイランといった香しい花々、ヴェルヴェンヌ、ミント、ローズマリー、セージなどのフレッシュな葉など、実にさまざまな種類の植物が生息し、それらは日常生活にとても身近なものだ。スーク(市場)のあちこちでは一年を通してハーブを見ることができるし、それらがドライハーブやスパイスとなってスパイスショップで売られている。お茶として飲んだり、料理に使われるだけでなく、精油やハーバルウォーターとしてライフスタイルのなかのあちこちに活用され、人々の心と体を潤している。
人とハーブの関わりについて知るため、マラケシュではフィトテラピーの第一人者として知られる、生物・植物学者のジャリル・ベルカメル博士を訪ねた。
アラブ人が大成させた「水蒸気蒸留法」
「アロマテラピーやエッセンシャルオイルのルーツは、アラビアにあるんです」と語るベルカメル博士。「10世紀から11世紀にかけて、イブン・シーナー(英語名はアヴィセンナ)という人物が医者、また哲学者として多くのことを成し遂げました。彼が記した『医学典範』は、近世になるまで各国で最先端の医学書として指針となっていたことで知られています。医療の分野で多くの実績を残したイブン・シーナーの偉業のひとつが、“水蒸気蒸留法”の大成です。蒸留装置を使った蒸留技術はそれまでにもありましたが、彼はへび状にガラス管を回して抽出物を早く冷却し、より濃縮された質の高い精油を採ることに成功しました。植物のもっている力がダイレクトに伝わるようになって、精油の効能も高まったわけです」。
抽出技術として優れた水蒸気蒸留法は、シンプルで経済的なため、広く世界中で利用されている。これが、アロマテラピーの成り立ちともいえるわけだ。
“精油はスピリチュアルなアプローチ”
精油といえばアロマテラピーと切っても切れないもの。薬効のあるハーブから抽出した精油には品種によってさまざまな効能があり、古来の人々が発見した知恵から受け継がれてきた。外傷や虫刺されに効くもの、血行を促進したりホルモンバランスを整えたりすて体の不調を解消するもの、リラックスや安眠を誘うもの、といったさまざまな使い方のできるハーブがある。
しかし、ベルカメル博士によるとモロッコでは、こと精油に関してはまた違った側面での捉え方があるようだ。「植物療法を通して、我々は身体的かつ精神的な健康を維持します。精油はそのうち、より精神的、つまりメンタルでスピリチュアルなアプローチと考えられています」。イスラムの教義のなかには、たくさんのものを授けてくれる植物を慈しみ、大切にせよ、との教えがすでにある。そうしたかけがえのない植物から何かを受け取ることは、それだけで精神性が高揚し、慈愛の気持ちが生まれるのだという。「崇高な真実のもとに心と体が一体となり、信じる心で満たされ、そのことが肉体をも癒すのです」。現代医学でも、精神面が肉体に影響を与えるメカニズムが解明されつつあるが、アラビアの人たちはすでにイスラムの教えのもとでそのことを知っていたというのだ。「人間と自然は共に尊び、敬いながら共存する関係です。そのことが精神と肉体との調和を図り、真の“創造”が生まれます」。ベルカメル博士は、人と自然の在るべき姿を教えてくれた。それは、モロッコの人々が当たり前のように実践してきたものだったのだ。
植物と対話し、通じ合うことの意義
北アフリカを代表する植物学者であるベルカメル博士は、モロッコのナチュラルコスメブランド「ネクタローム」の研究開発も行っている。「コスメ作りは上質な精油をとること、それに尽きます。4月になり、最初に花開くのはビターオレンジ(=ネロリ)。フレッシュなうちに、そしてパワーにあふれたベストな頃合いを見計らって収穫します。2.5トンの花から採れる精油の量は1リットルです。5月になるとダマスクローズ。これはさらに希少で、1リットルの精油を採るために花びら5トンが必要。30本のバラからやっと1滴、という計算になりますね。1リットルあたり、8000ユーロの値がつきます。ハーブには多くの種類があり、葉や茎から抽出するもの、根を使うものとさまざまですが、原料100キロから精油1リットルを産出する、というのが平均的です」。その製造過程では、質の高い精油を抽出するためのあらゆる工夫がなされている。
ネクラロームが運営するマラケシュ郊外の施設「ウーリカ・ビオアロマ庭園」では、ラボや工場があるだけでなく、観光ハーブ園も併設し、植物に興味をもつビジターを受け入れている。「ここは、人々に五感を開いてもらうために解放しています。植物の姿を見て、臭いで、触れて、味わって、そして声なき声を聞いて。そうすることで人間の感覚は開いて研ぎ澄まされ、植物と理解し合えるようになります。私たちは注ぎうる限りのあらゆる愛情をもって製品を作っていますが、そのことも、植物との対話のひとつです」